のぞみの会-講演会・勉強会
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講演会 2003.01.19 尾道 & 2003.1.25 広島
「がん体験を生きる」

YMCA訪問看護ステーションピース前所長
馬庭 恭子 氏

私は看護師として働いていたが、自分ががんになってみると医療を受ける側と与える側とでは別世界だとわかった。

私の卵巣がんは誤診だった。三人の先生に良性の卵巣腫瘍だといわれて安心していたが、良性でもはやく手術してしまおうと思って幸いだった。卵巣がんは自覚症状が出るのが遅いことが多い。一回目は良性腫瘍として手術を受けたが、術後がんだと判明した。このときセカンドオピニオンの重要性を痛感した。

自分ががんになったとき、自分の命を預けるのはどこがいいかを知る必要があるが、その情報が得られにくい現実がある。私は口コミと卵巣がんの手術件数と治癒率の高いことを発表していることを基準にして先生を選んだ。自分の納得がいく治療が受けられれば、どこへでもいこうと思っていた。がん保険に入っていたので、入院したときに個室が選べてよかった。突然がんになったとき、相談するひとがいないと困る。看護婦さんに聞いても実際のことはわからないことが多く、入院している同病の患者さんに経験談を聞かせてもらったことがありがたかった。同病の人の励ましが心に響いた。この役割を誰が荷うべきか。なぜ病院に糖尿病教室があるように、がん教室がないのだろうか。入院中には学ぶ時間が沢山あるので、勉強してはどうだろうか。そのようなシステムをつくるべきだと思った。

私は退院後卵巣がんの会があるか調べたが、身近にはなかったので、自分で婦人科がんを対象として「ウーマンズキャンサーサポート」という会を立ち上げた。二ヶ月に一回勉強会をしたりしている。病気になったときにどう対処したらいいのか、若いころから考えるような仕組みが必要だと思った。自分は医療従事者でもあり、患者でもあることは、医療の光と影を見ることができる。今後このような面でシステムづくりを進めて行きたいと思っている。

入院生活で、患者としていろいろ気づいたことが多かった。入院中はミスが起きないように、自分でできることは自分でチェックするようにした。点滴のときにはビンの名前を常に確認していた。

抗がん剤を受けると脱毛するとは聞いていたが、どのように脱毛するのか知らなかった。ごっそり抜けたので、初めに全部そってしまった。これはがんと戦うぞという自分の決意表明でもあった。

二回目の手術の前には最悪の場合も考えて遺言を書いた。術後目覚めたとき生きて帰れたと思った。この経験を絶対に無駄にはしない、ここから第二の人生、「生きなおしの人生」を生きるのだと思った。

しかし自分が退院してみると母親が重症の肺炎になっていて、退院と同時に母親の在宅看護をすることになり、三ヶ月世話をした。介護保険を使い、訪問看護を受けて世話をした。家族がひとりがんになると他の家族のパワーも落としてしまうのだということがわかった。がんを抱える家族のケアも必要だと思った。

看護婦になって間もないころ、ある肺がん患者に接して、本当のことを伝えてくれとせまられたが、本当のことを言うことができなかった。そのときの体験が、がん告知の問題、最後を家庭で過ごせるシステム作りなどを考えるきっかけとなった。大学で学んだあと、訪問看護ステーションを設立してがん患者さんや難病患者さんの看取りをしてきた。もしたとえがんになっても最後を自宅で過ごしたいと思ったときにそのシステムがあることを知ってもらいたい。

このごろは在宅治療のための様々な対応がされている。食事がとれなくても、中心静脈栄養である程度栄養がとれる。この状態で入浴もできるし、仕事にも行ける。今はがん末期の疼痛治療もいろいろ薬があり、持続的に痛みをとる方法もある。

在宅治療の患者さんの実態を紹介する。ある男性のがん患者さんは自宅で最後をすごすことにして、訪問看護を受けている。家に帰ると自分の食べたいものが食べられて食欲も増えてきた。タバコも家では吸えるので、最後まで好きなタバコも吸った。自分が最後にすべきことをすべてやって、葬儀の際の遺影も選んでいた。最後の誕生パーティを自宅で開いたときの写真である。彼は自分の体験から、見舞いに来た人たちにもこのようなシステムがあることを知っておくように教えていた。

私は二匹の犬を飼っていたが一匹が病気になり、床ずれができてしまった。そのときもう一匹の犬がその傷をいつもなめてそれを治した。傷つきやすいものに対していつも関心を持って暖かいまなざしをそそぐということが看護なのだということをこの犬から教えられた。

がん生還者として、今後自分たちの経験を無にしないためにそれを生かすシステムつくりをしていかなければならないと思っている。

(講演の内容を浜中がまとめさせていただきました。)
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